2025年度法政大学文学部日本文学科 小論文解説
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- 4 日前
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2025年度法政大学文学部日本文学科 小論文の解答例を作成しました!
【解説】
問1
中上健次の短編「楽土」というタイトルには、表面的な「楽園」や「安住の地」という意味と、それとは裏裏腹な絶望や死、そして血縁の呪縛という重層的な意味が込められています。
1. 理想としての「楽土」:家族の再生への願い
物語の冒頭で描かれる庭や、そこで育てられる花、そして百羽もの小鳥たちは、主人公が築こうとした「ささやかな平穏(楽土)」の象徴です。
• 家庭の理想: かつては、両親、夫婦、娘二人の六人で「うまくやっていけるはずだ」という希望がありました。
• 父性の回復: 主人公は自分の幼少期に欠けていた「父親としての愛情」を、娘たちとの散歩や花を愛でる行為を通じて埋め合わせようとしていました。 この「庭(楽土)」を整える行為は、過酷な労働や自身の荒ぶる性質、そして不幸な家族の歴史から逃れ、「人間らしい安らぎ」を構築しようとする切実な試みであったと考えられます。
2. 皮肉としての「楽土」:死と暴力が支配する場所
しかし、このタイトルは極めて皮肉(アイロニー)に満ちています。彼が作り上げた「楽土」の実態は、暴力と死が渦巻く場所でした。
• 死骸の埋葬地: 花壇の下には、次々と死んでいった小鳥たちの死骸や未生の卵が無数に埋められており、主人公自ら「花壇は小鳥の墓場でもあった」と述べています。
• 血縁の呪縛: 三月三日の雛祭りの日に首を吊って死んだ兄の記憶や、自分を捨てた実父への愛憎が、彼の平穏を内側から食い破ります。
• 破壊と拒絶: 酒に酔い、テーブルを叩き壊し、家族に石油を浴びせて心中を図ろうとする彼の行為は、家を安住の地ではなく、「地獄」へと変容させました。
3. 死によってのみ完成する「楽土」
著者の意図として、現実には存在し得ない「救済」の形を提示していると考えられます。
• 炎による結合: 主人公は、自分と妻と娘たちが「四人で炎に成る」ことを夢想します。彼にとって、バラバラになりかけた家族が完全に一つに溶け合える唯一の場所は、現実の生活ではなく、「死という破滅の瞬間」にしか見出せなかったことを示唆しています。
• 黄泉への祈り: 物語の終盤、土に埋めた鳥の死骸を掘り起こし、「黄泉(よみ)では空を翔けるように」と願う場面があります。現実の「楽土」を喪失し、一人残された彼にとって、真の楽土とはもはや死後の世界(黄泉)にしか存在しないという絶望的な結末を強調しています。
問2
『十九歳の地図』解説(設問理解のために)
本作は、19歳の予備校生でありながら新聞配達に従事する「ぼく」の、閉塞感と攻撃性を描いた作品です。
• 「地図」と×印の支配: 主人公は、自分が配達する区域の家々を記した地図を作り、気に入らない家や裕福そうな家に「×印」をつけていきます。彼は電話でそれらの家を脅迫することで、社会の底辺にいる自分が、あたかも「世界を支配し、刑を執行する神」であるかのような全能感を得て、危うい精神のバランスを保っています。
• 「ぼく」と紺野・斉藤の対照: 同じ寮に住む同室の紺野は、嘘ばかりつき、年上の女性に依存して生きる、社会的には「終わった」人物として描かれます。一方、斉藤は予備校の精鋭コースに通い、社会的な上昇を目指す「まともな」学生です。主人公はこの両者を「うじ虫」や「テントリ虫」と蔑みつつも、自らもまた何者にもなれない絶望の中にいます。
• 「世間」という壁: 主人公にとって、大学進学や就職といった「可能性」は、既存の社会機構に組み込まれるだけの空虚なものに映ります。しかし同時に、新聞配達員という「社会的身分」によって自分が規定されていることへの耐えがたい屈辱も感じています。「世間の敗残者」という言葉は、そのような、個人の魂の叫び(人生)を無視して、記号的な社会的価値で人間を分類する冷酷な現実を象徴しています。
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この作品における「世間」は、「勝手に決められたルールで人間を格付けする巨大な劇場」のようなものです。主人公は、その劇場の観客席にもステージにも居場所を見出せず、ただ暗闇から「爆破予告(いたずら電話)」という名のヤジを飛ばし続けることでしか、自分の存在を証明できないのです
これらを参考にして、自分で答案を書いてみましょう!!

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